におい

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あかぎれだらけの指をみて、昨日遊びにきた兄が「液体ばんそうこうをつかってみれば」と教えてくれた。
薬を塗ったり、洗いものをする時は必ずゴム手袋をしたりするけれど、傷は減らないどころか増えつつあったので、さっそく買ってきた。

チューブから押し出すと、透明の液体が出てくる。すばやく指に塗ろうとしたところ、同時にひろがった接着剤のようなにおいに懐かしさを感じてハッとした。10年ちかく前、学生時代にアルバイトをしていた京都の書店を思い出した。

バイト中、履いていたスニーカーの底がかかとから剥がれてきていたのを接着剤で無理やりくっつけていたことがあった。すっかり忘れていたけれど、あの場所で過ごした数百日のなかの一日にたしかにそんな時間があった。
事務所に積み上がったファックスの山、監視カメラの映像、冷蔵庫、黒いエプロン、「靴買いなよ」と笑われて、笑って、本を売って、返品して、コーラばかり飲んで。将来への不安や反発心を感じながらも、あの場所に行くだけで楽しかった日々があったこと。

いいことも悪いことも、過ぎたことは積極的に忘れていきたいと思っているところがあるけれど、それとは別に五感をつかって体は記録をつけ続けている。それが呼び起こされた時は、自分の意志とは別に記憶のいいなりになってしまう。