金曜の夜をおよぐ

たびたび、なにかが停滞する日がやってくる。

家の窓を開けて風を通したり、掃除をしたりしても、思いきって寝てもだめ。地に足がつかない感じがして何もすすまず、落ち着かない。ふわふわ。
今日はまさにそんな日だったので、日が暮れてから着替えて家を出た。ハーフパンツにTシャツにウインドブレーカー。足もとは、ナイキのランニングシューズ。見えないけれどポムポムプリンのくるぶしソックスも履いている。

町では、金曜の夜が始まろうとしていた。改札から出てきた人たちが行きかい、駅前はとくににぎやか。魚になった気分でするすると人込みを抜けながら、ひとりひとりを観察する。

大人数で歩いていくスーツ姿の男性。ちょっと恥ずかしそうにしている若い人は、きっと新入社員なんだろう。スーツを着慣れていない人ってなぜかすぐにわかる。

頭に手作りの紙のお花をのせた女の子。母親が押す自転車の後ろに座ったまま器用に寝ている。この道を歩くほとんどの人が、彼女の寝顔をみてちょっとほっとする。車のクラクションが鳴ったりしませんように。

鰻屋から出てきた老夫婦。耳元でおばあさんから何かを言われたおじいさんが、しきりに頷いている。おじいさんはチョッキのポケットから楊枝を出していた。マイ楊枝かあ。

ひとりで歩く女性。背筋をぴんと伸ばしていても、後姿から疲労が伝わってくる。スカートのしわ、座り仕事かな。手に持ったビニール袋の中身は、たこやきとビール? 素敵ですね。さけるチーズもくわえたい。

スーパーの店長、店頭のチラシを貼りなおしている店員の女の子と話してる。仲の良い親戚同士みたい。そういえばお店自体にも、よそとうちの間みたいなちょうどいい居心地のよさがある。

1日を終えた人がたくさん通り過ぎていく。人にあたらないように、人に気づかれないように。体をくねらせ、ひれを動かし、するすると前に進むのは気持ちがいい。短い商店街を抜けて家がみえてくる頃人間に戻ると、少しだけ頭がすっきりしていた。