立ち止まれない街

いつもは避けがちな街、渋谷に行く。
八月末に皮膚科で小さなしこりを切除してもらい、今日は術後1週間の診察に行かなければならなかった。

あっという間に診察を終え、数百円を払って病院の入ったビルを出ると、風が吹いた。
ぬるいとも涼しいともちがう、心地よさとはこういうものだと教えるために神さまがつくったような風。
いつもだったらまっすぐ駅へ向かうところを、今日はそれに背中を押されるように、駅を通り越して歩き出した。

東京にきて10年が過ぎたけど、渋谷とはいつまでたっても仲良くなれる気がしない。
新宿の雑踏はきらいじゃないけど、渋谷のはなんだか顔が勝手にゆがんでくるし、新宿では立ち止まることができるけど、渋谷ではできない。
渋谷の駅を降りてからは、蹴伸びだけでどこまでいけるかを試すように、息を止めて一気に泳いでいる気分。気合いがいる。だからよっぽどの理由がない限り近寄らなくなっていた。

でも、今日は平気だった。
気がつけば寄り道までして、のんびりと通りを歩いていた。
風が吹いていたからだ。
あんなに絶妙な風を吹かせてくれるのだから、神さまが本当にいるのならセンスと思いやりに溢れてるし、なにより愛を感じる。